歌い分け

3月11日(土)バッハ マタイ受難曲 30・36b・38b番 保土ヶ谷公会堂

 30番から音とりを始める。1パート、2パート、3パート、全パートと念入りに行い、どんどん声が合っていく感覚が気持ち良い。その中で、ベースとソプラノの引き渡しの練習が印象に残った。39小節から2度でぶつかって離れていくベースとソプラノのロングトーンの掛け合いが美しい。歌詞も「ああ、誰よりも美しいご婦人よ」。湘フィル女声陣のことかと思ったが、どうやら違うようだ。前回に引き続き、メッサ・ディ・ヴォーチェが出てきた。先生も何度も言われたが、こういうやりとりを意識して歌いたいものだ。それから、メリスマの「先に行こうとするエネルギー」にも納得した。次の小節に向かって音量を上げ加速すると、たちまちメロディが躍動し、同時に歌詞から受ける焦燥感も表現されると思う。小節頭の音の順次進行も耳に残る。
 捕われたイエスを心配して泣いている美しい女性に、合唱も「一緒に探します」、と言った舌の根も乾かぬうちに「イエスは死罪だ」……! 36bではおぞましい群集心理を歌う。合唱はドッペルに割れてばらばらになり、興奮した群衆が口々に叫ぶ様子がわかる。どの音がきっかけで切り返すか、どの音がくさびか、という指摘で歌詞に合った鋭さが少しずつ歌えてきて、次々出てくる Er ist がどんどんはっきりしてくるのがわかった。
 今日は東日本大震災から12年目。会場には募金箱が置かれた。マタイで表現される人間の悲しみや苦しみは、辛い思いをしている人々の心に寄り添うだろう。3DM

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