29番の魔力

3月26日(日)バッハ マタイ受難曲 40・41b・44・45a・45b・29番 神奈川公会堂

 40番は、慟哭のアリアのあとの決意表明のようなコラール。短調から長調に移っていく出だしの和声にも意志が感じられるし、中間部のロ短調からニ長調に転調するところも決然とした感じがする。2度でぶつかる重心をかける音とか、八分音符を意識した四分音符の歌い方など、すっかりおなじみの、だからこそ大切な注意がある。44番では、アルトは内声の幸せを感じて歌ってほしいとか、テノールは自由に飛び回るとか、いつもながら先生の表現に魅了される。 
 さて事態は進み、いよいよバラバの叫び。たった3音のためにわざわざⅠ・Ⅱコーラス分けて2パートずつ同じ音を歌う。次の45bはまた二つのグループが一緒になるのに。それにしてもこのバラバって本当にバラバという名前だったのだろうか。いかにも悪者、という感じで、しかも超歌いやすい!ちょっと都合良すぎるのではないか。これがハラハとかパラパだったらどうなっていたのだろう。まあバッハのことだからきっとこれしかない、という音楽をつけたんだろう。 
 後半は29番。湧き水が絶えず流れ続けるような十六分音符の伴奏に乗って合唱の二分音符、四分音符、八分音符が切れぎれに繰り返し聴こえてくる。無限に続くのかと思うとふいに終わってしまう。29番を練習すると、その魔力にとりつかれて不思議なリズムがいつまでも耳に残る。現実は軽快な指鳴らしに引きずられていたのだが、耳の中で鳴り続けるリズムは完璧だ。早く現実もそうならなければね!3DM

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